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busy_old_fool’s blog

将来は富山に住みたいものです。

翻訳:'Eve's Apology in Defense of Women' from Salve Deus Rex Judæorum by Æmilia Lanyer

女性を擁護してのイヴの弁明*1

 

エミリアラニアー

 

 

今まさにポンティウス・ピラトは、彼の前に立っている

罪なきイエスの案件を裁こうとしている。

彼は今、恐ろしい枷につながれ引き立てられているが

君主を害することも、律法を侵すこともなかったのだ。

ああ、気高い統治者よ。今少し待て。

罪なき血で汝の手を汚すな。

 救済者の命乞いのために、お前に使者を遣わした

 たいへん善良な妻の言葉を聞け*2

 

野蛮な残酷さはお前から遠く引き離し

真の正義の名において苦悩の側に立て。

目を見開け、さすれば真実が見えよう。

お前の心に逆らうことはするな。

お前の救済者たるはずの者を咎めるな。

彼の神聖な命、彼の善き功績を見よ。

 私たち女を、男の堕落*3によって誇らせるな。

 私たち女を支配する力を与えられているのだから。

 

そして今ついに、あなたたち*4の無分別が私たちを自由にし

そして、私たちの過去の罪を目立たなくする。

木から実を味わい、とても愛おしく慕っていた

アダムにも与えた、私たちの母イヴは

単に善良*5であり、理解力がなかったのだ*6

後に続く災いは明らかではなかったのだ。

 私たちの女を欺いた狡猾な蛇は

 私たちの堕落の前に、策がめぐらされたことを確信していた。

 

あの分別を持たない無知は彼が意図していた

悪意や手口に気づかなかった。

それは、もし私たちが奪われてしまったもの*7を彼女が知っていたならば

彼の願いを承知することはなかったからだ。

たがかわいそうな魂は、狡猾さに騙されたのだ。

彼女の無邪気な心は、その行為に悪意を持ってはいなかった。

 なぜなら彼女は神の言葉を、蛇が否定したといえ、引用したからだ。

 食べてはならない、しかし天使たち程に賢くなれると。

 

だがアダムも確かに罪を免れない。

彼女の罪も大きいといえども、彼が最も咎められて当然だ。

力あるものは、弱きものが差しだしたものを拒絶しえただろう。

すべてのものの支配者であるから、彼の不名誉の方が大きい。

蛇の狡猾さが彼女を欺いたとしても

神の聖なる言葉が、彼の行いすべてを司るべきなのだ。

 というのも、あわれなイヴが命や息を持つ前から

 彼はすべて大地の支配者であり王であったからだ。

 

彼は神の永遠の手で、地上で息をした何者よりも

完全無欠な人間として創り出され、

そして神の口から厳しい命を受けたが

それに違反すれば現在の死*8をもたらすと知っていた。

ああ、海と陸とを支配する力を持っておきながら

たった一個のリンゴで息*9を失わされたのだ。

 神が彼の顔に吹き込んでくださった息を

 私たち皆を危機と恥辱に引きずり込みながら。

 

そしてそれから、私たち(哀れな女)がすべてを

耐えるように、その罪を忍耐の背中に乗せた。

差し出す以上の説得をイヴはしなかったのだから

私たちかアダムが思慮分別に欠いていたということをよく知っている。

もしイヴが過ちを犯したというならば、それは理解力という理由がある。

果実の美しさがアダムを堕落へと誘ったのだ。

 彼を裏切ったのは狡猾な蛇の嘘ではない。

 彼が果実を食べることを望むなら、誰が止める力を持っていたというのか?

 

イヴではない。彼女の罪はただ溢れんばかりの愛で

その愛のため彼女は良き人に、彼女が味わったものを

彼も同じく味わい、そのために彼の知識が

より明瞭になるように、この贈り物を与えたことだけだ。

彼は神から聞いた厳しい言葉で

彼女の弱さを諫めようともしなかった。

 だのに、男たちはあたかも学問的な本から身に着けたかのように

 イヴの美しい手から貰った知識を自慢するものだ。

 

もし何かしらの悪が彼女の中に残っているとすれば

男から創られたものである*10以上、彼にすべての原因がある。

たとえ多くの世界*11の内の一つが、私たちの女に

汚れを残し、サタン*12の狡猾な計略によって

卑劣な男に大きな堕落をもたらそうとも、

あなたたち男すべての中でいったい誰があれほど酷い罪を望むのか?

 彼女の弱さは確かに蛇に従ってしまったが、

 あなたたちは悪意から神のいとしい子を裏切った。

 

もしおあなたたちがその子に不正にも死罪を下す*13なら

彼女の罪はお前が犯したものに比べて小さかった。

復讐を叫ぶ全ての大罪も

あなたたちのそれには比べようもない。

多くの世界が一緒になって神の怒りを

買った罪すべてを試してみようとも、

 あなたたちのこの罪は、ちょうど太陽がほかの小さな星を

 はるかに凌ぐ*14ように、それらすべてを凌ぐのだ。

 

それなら、私たちにまた自由を与え

あなたたちに統治権があると主張するのは止めなさい。

あなたたちは私たちの痛みなくしてこの世に生まれることはない。

そのことを考えて、残忍な仕打ちはよしなさい。

あなたたちの罪の方が大きいというのに、なぜ私たちが

暴虐から解き放たれ、あなたたちと平等*15になることを潔しとしないのですか?

 たとえ一人の女が単に過ちを犯したとしても、

 あなたたちのこの罪には、弁明も終わりもない。

 

かわいそうな人たち、私たちが受け入れるような終わりはないのに。

ああピラトよ、お前の妻が、夢を見ただけであったのに

お前があの義なる男の死に何も関与しないように

伝言を遣わし、皆のために声を上げているのを見よ。

それがお前の心をなだめるならば、

どうしてサウル*16とともに破滅者になり

 お前の魂の繁栄のために至上の血を流す

 たいへん善き人の死を求めようとするというのですか?

 

原文(中ほどから始まります)

Selected Poems of Aemilia Lanyer

 

<註>

*1:ラニアーはSalve Deusのこの部分にEve's Apology in Defence of Womenというタイトルを与えた。しかしイヴはナレータではなく、ナレーターがイヴ(とすべての女性の)の弁明(apology)をしている。ラニアーは頓呼法(apostrophe)と呼ばれる方法を用い、イエスの磔刑を許可したピラトに対して呼びかけている。ピラトとアダムが男性の代表、イヴとピラトの妻が女性を代表する。

*2:『マタイによる福音書』27章19節「一方、ピラトが裁判の席に着いているときに、妻から伝言があった。『あの正しい人に関係しないでください。その人のことで、わたしは昨夜、夢で随分苦しめられました。』」(新共同訳:以降の聖書の引用もすべてこれによる。)

*3:アダムの、そしてこれから起こるピラトのである。

*4:この詩は、一人称の単数・複数の区別がまだ何とか残っていたころのものである。ナレーターはthouでピラト、youでイエスの磔刑に居合わせた男たちに語り掛けている。

*5:『創世記』の第1章で神は創造した男女を祝福しているし、31節には「神はお造りになったすべてのものをご覧になった。見よ、それは極めて良かった。」とある。イヴも善いものであったのだ。

*6:エデンにおいてイヴは蛇にそそのかされて「善悪の知識の木」の実を食べてしまう。『創世記』2章16-17節には「主なる神は人に命じて言われた。『園のすべての木から取って食べなさい。ただし、善悪の知識の木からは、決して食べてはならない。食べると必ず死んでしまう。』」とあり、過去の『創世記』の注釈は普通イヴが神がその実を食べることを禁じているのを十分承知していたと強く主張していた。彼女の行為は通例、不節制、驕り、野心のためとされてきた。

*7:すなわち永遠の命である。『創世記』3章において、イヴは蛇にそそのかされ禁じられた知恵のみを食い、アダムに勧める。神はそれに気づくと、アダムには重労働、イヴには出産の痛みと夫への服従、そして二人ともに苦悩と死を与えエデンから追放した。

*8:現在、人間が死を免れないのは聖書的には原罪のためである。

*9:すなわち永遠に続いたはずの命の息のこと。

*10:『創世記』2章22-23節。「そして、人から抜き取ったあばら骨で女を造り上げられた。主なる神が彼女を人のところへ連れて来られると、人は言った。『ついに、これこそ/私の骨の骨/私の肉の肉これをこそ、女(イシャー)と呼ぼう/まさに、男(イシュ)から取られたものだから。』」

*11:世界が人間に対応しているという考え方であるミクロコスモス(microcosm)が背景にある。

*12:伝統的に蛇とサタンを同一視するが、この同一視は『創世記』においては行われていない。

*13:政治的な場にいたのは、古来男たちであった。

*14:プトレマイオス的な宇宙観では、太陽はほかのどんな星や惑星よりも大きいとされた。

*15:この詩において、ラニアーはイヴの「罪」の弁護をする一方で、男性の罪する批判も展開し平等を求めている。しかしながら、この雄弁な議論の出発点は何度も繰り返されている、アダム(男)がイヴ(女)よりも知力において優っているという前提を出発点にしている、ということを指摘しておくべきであろう。

*16:イスラエルの王。ダヴィデが神に愛されているのを見て、彼を殺そうとするものの果たせなかった。