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busy_old_fool’s blog

将来は富山に住みたいものです。

翻訳:'The Disappointment' by Aphra Behn (18歳未満立ち入り禁止)

注意:18歳未満立ち入り禁止

とは言え中身は至ってまじめな翻訳です。

 

失望*1

 

アフラ・ベーン

 

 

ある日、欲情したライサンダー*2

情欲に耐えきれず

愛された乙女、美しいクロリスの不意を襲った*3

そしてもはや、彼女は純潔を守れなかった。

すべてのものが彼の愛と共謀したのだ。

日中の金箔を被った惑星*4

炎に牽かれた煌びやかなチャリオットの中

今や海へと沈んで行っていき、

クロリスのより輝かしい瞳から放たれる光の他に

世界を導く光を残すことはなかった。

 

愛の行為のために造られた人跡まれな茂みの中で

身を任せる処女の許しのように静かに

彼女は魅惑的な弱さを見せて

彼の力を受け容れ、ただそれでも優しいせめぎ合いを見せる。

彼女の手は彼の胸にそっと出会うが

彼を故意に押し返すのではなく

それよりも気乗りして手を引き込めるのだ。

彼が足元で震えて横たわっているうちは

抵抗したって甲斐がない。

「・・・ああ、ねえ、何しているの?」と、声に出す力は彼女にはない。

 

愛と恥じらいが乱れ混ざってせめぎ合う

彼女の優しくも厳しい輝く瞳が

ライサンダーに新たな精力を与える。

そして彼の耳元に弱々しく息を吐きながら

彼女は叫ぶ。「・・・やめて、やめて・・・むなしい性欲を抑えて。

やめてくれないと叫ぶわよ・・・そうしたらあなたどうするの?

命よりも大切な貞操はあなたにだって捧げられない。

捧げてはいけないの・・・身を離しなさい。

離さないのならわたしの命を奪って。心を勝ち取らせ、そして

それと一緒に一番大切な場所も捧げてしまったこの命を」*5

 

しかし彼は、愛の営みに長けているほどに

怖れというものに慣れてはいなかった。

祝福された時をさらによきものにしようと

彼は、彼女の口や首や髪にキスをした。

彼が触れられるたび、彼女の内で新たな欲望が呼び覚ます。

燃えるように熱い、震える手を彼は

彼女の大きくふくらんだ雪のように白い胸に押し当て、

彼女は彼の腕の中、喘ぎながら横たわる。

彼女の美しさすべてが無防備に、敵にとっての

略奪品や戦利品として横たわっている。

 

そして今、敬意や恐れも抱くことなく

彼は得ると誓ったものを探しだす。

(彼の情愛は慎むことを許さないのだ)

少しずつ、少しずつ手を伸ばし・・・彼の手は

ようやく、かの祭壇を手にする。

愛の神がいけにえを捧げる

かの恐ろしい玉座、かの楽園。

憤激は鎮められ、怒りは悦に満たされる所。

かの泉では、歓びがいまだに流れ

全世界に安息を与えるという。

 

彼女の芳しい*6唇が彼の唇に重なり

二人の体、二人の魂がつながった。

そして二人は恍惚の中で解き放たれ

苔の褥に身をひろげる。

クロリスは半ば死人のように、息もなく横たわり

その優しい瞳は湿っぽい光を放つ。

それは昼と夜とを分かつ光のよう、

煌めきの衰えゆく流れ星のよう。

そして今や、彼女に命がある証は

吐いては吸っている短い息、ただそれだけだ。

 

彼は彼女が体を伸ばして寝ているさまを見た。

彼は彼女のむき出しの膨らんでいる胸を見た。

彼女のはだけた薄いローブからは、愛と戯れ

の為に形作られた姿態があらわになる。

誇りと恥じらいに見捨てられ、彼女は

何よりも心地よい歓びを施すのだ。

乙女の清き純潔を

愛の聖なる炎のいけにえにして。

ところが狂喜に狂喜した羊飼いは

いけにえの儀を執り行えずに横たわっている*7

 

 今にも千、万もの歓びを味わおうとしておきながら

そのあまりにも恍惚としてしまった不憫な間男は

茫洋たる歓びが苦悩に変わったことを悟ってしまった。

あまりに有り余ると、愛を毀ってしまう歓び。

彼が従順な女の服を脱がせると

至福の天はすべて眼前に広がった。

手に入れ支配しようと猛り、麗しく

無防備な乙女へと彼は飛び込んだ。

だが、ああ、なんと妬み深い神が

彼の力を奪い、そのくせ欲望だけを残すように図ったことか。

 

官能的欲求の支柱(その支えがなければ

彼女は誰も喜ばすことはできない)

それ自体が今や生きる力を失ってしまった。

弱さがその弛緩した神経を侵し

憤った若者は甲斐もなく、消えゆく

精気を呼び戻そうと試みる。

どのように触ろうにも、勃つことはない。

彼は、その愛が度を越していたことを露呈してしまった。

甲斐もなく励み、甲斐もなく勃てと命じるが

無感覚のまま小さく*8、手のひらの上で体液を滴らせている。

 

この欲情に溢れた残酷な諍いの中

愛と運命はとても厳しく、

あわれなライサンダーは絶望し

彼の理性と命とを拒絶した。

そして今や、より高貴な部分を

燃やすべき活発で盛んな炎は

彼の怒りと恥を焚きつけけ、

新たな欲望を燃やす火花を残すことはなかった。

裸体の彼女の魅惑すべてを以ってしても、彼の愛を貶めた

怒りを動かすことも静めることもできなかった。

 

クロリスは、愛と優しい欲望が育んだ

恍惚から目を覚まして

臆病な手を優しく

あの素晴らしいプリアポス*9

詩人らが物語るように力強いかの神、

の上に置いてみた(或いは神意か偶然に嵌められたのかも知れない)。

だが、若い女羊飼いは

平野でシダの葉を集めていた時

ずっと如才ないやり方で手を引いて

青々と茂った葉の下に蛇を発見することは断じてなく*10

 

クロリスはただその美しい手を引いて

彼女の欲望をつかさどる神が

彼の恐ろしい炎をその身から脱いだこと

朝露に浴している花々のように冷たいことを知るのみだった。

誰がこのニンフの混乱を察し得よう。

血が心地の良い場所から滴り落ち*11

彼女の軽蔑と恥じらいの二つの表情が

浮かんだ顔一面に赤みが差した。

そして彼女はライサンダーの腕から逃げ

彼は陰鬱な褥の上で喘いだまま取り残された。

 

稲光*12、或いはデルフォイの神から逃げるダフネ*13のように

木立を通って彼女は逃げ、

追う者の目を導くような足跡を

草深い道に残すことはなかった。

彼女の髪の毛の中で跳ね回り

しわの寄った衣服と戯れる風は、

飛ぶように走る乙女の中に

神が造った美しいものすべてを見出した。

そのようにヴィーナスも、愛人*14が殺された時

恐れ、焦りながら運命の平原を飛んで行ったのだ。

 

そのニンフの憤りを、よく想像することも

慰めることもできるのはわたしだけだ。

だが、ライサンダーの心は

彼の運命を揺るがしたものにしか推し量れないだろう。

彼の静かなる悲しみは嵐となり立ち上り

彼の怒りを避けえる神は一人としていない。

彼は自分の誕生を呪った、運命を呪った、星を呪った。

だがそれ以上に女羊飼いの魅惑を呪った。

かの女の、快く男を魅了する力が

彼を不能の地獄へと追いやったのだから*15

 

原文(版が異なります)

www.poetryfoundation.org

CAUTION: THE LINK ABOVE IS HIGHLY NSFW

 

参考

busy-old-fool.hatenablog.com

 

<註>

*1:John Wilmot, 2nd Earl of Rochesterによる勃起不能を詠んだ'The Imperfect Enjoyment'の系譜に連なる詩であり、この詩の初出(1680)は彼の詩集の中でった。

*2:ライサンダー、クロリスともに牧歌ではありきたりな名前。牧歌の伝統に沿って始めている。

*3:レイプからこの詩は始まる。セックスにおける男女の力関係を示しているようである。

*4:ポイボス=アポロン、太陽のこと。

*5:通例、牧歌(pastoral)では女性は話さないという伝統があった。この詩では逆に、沈黙しているのは男性である。

*6:原文ではbalmy: balmはミルラノキから取れる樹脂で、香油に利用される。

*7:セックスにおいて女性が犠牲者という構図。ここに男性>女性という力関係がうかがえるが、ただ、ライサンダーは儀式を執り行えない。

*8:insensibleに二重の意味を掛けている。

*9:古代ギリシアで牧人らに崇拝された豊穣神。巨大な勃起した男根の持ち主として描かれる。

*10:この件には聖書のイヴの物語が下敷きにある。

*11:49行目参照。

*12:lightningは'The Imperfect Enjoyment'でも使用されている単語。

*13:デルフォイの神はポイボス=アポロン。ダフネは彼の求愛を拒否し、逃走。追いつかれそうになったところで父に祈り月桂樹に変わったという。以降、月桂樹はアポロンの神木となる。アポロンの職能から、月桂樹は詩人の象徴ともされる。このエピソードは詩と女性の関係を主張し、女性が文筆で身を立てることを正当化する意図をもって挿入されているかもしれない。当時、ものを書いて金銭を得る女性は、娼婦と同類であるとみなされていたと言う。

*14:アドニスのこと。

*15:勃起不能において女性を非難するのは'imperfect enjoyment' genreにおける常套。ただこの詩において一つ確実に言えることは、勃起不能の体験を通して男性>女性であった力関係が何らかの形で逆転しているということ。その意味で、mock-pastoral, mock-'imperfect enjoymnt' poemと言えるかもしれない。