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busy_old_fool’s blog

ごく私的なメモ

概説:中世(およそ1485年まで)の英文学

中世(the Middle Ages)は、おおよそローマ帝国の崩壊からルネッサンス(Renaissance)と宗教改革(Reformation)までの間を指す。ルネッサンスとは19世紀の歴史家たちによる言葉で、14-15世紀にイタリアで起こりヨーロッパ各地に伝播していったローマ・ギリシア文芸の「復活」を意味し、また16世紀初頭にドイツで始まった宗教改革はRe-formationという語が示す通り、ローマ・カトリック教会(Roman Catholic Church)の至高な権威を否認するダイナミックな宗教運動である。(1485年までとしているのは、この年にヘンリー7世(Henry VII)の即位しチューダー朝(Tudor)が開かれイングランドにおける中世の終わりの指標として都合がよいからである。)しかしながら、ルネッサンスを「復活」と見る姿勢は、それ以前の時代がいわば休眠状態にあることを示唆する。これに対し、近年の中世理解には二つの潮流がある。一つには、中世とそれに続く初期近代(Early Modern Period)と言われる時代に連続性を見出すもの。もう一つは、17世紀の叙述家たちが時代の栄華を強調するたある意味「中世」を作り出したというもの。そしてもちろん中世の文筆家たちは自分たちが「中(なか)」に挟まれた時代に生きているとは考えていなかった。

 ローマ・カトリック教会による連続性はあったものの、中世は歴史的・社会的・言語的に激動の時代であった。そして、主として三つの区分に分けられよう。アングロ・サクソン文学(Anglo-Saxon Literature)、アングロ・ノルマン文学(Anglo-Norman Literature)、14-15世紀における中世英文学(English Literature in the Fourteenth and Fifteenth Century)である。およそ450年ごろに大ブリテン島の南東の征服を開始したアングロ・サクソン族は、他のゲルマン系の言語と明らかな近似点を持つ古英語(Old English)を話していた。そして10世紀になってようやく、大陸で書かれた古サクソン語による詩の一部が古英語に書き写された。古英語文学は形式と内容においても他のゲルマン系の言語で書かれた文学と物語を共有している。ベオウルフ(Beowulf)における登場人物の多くはキリスト教以前のデーン族(Danes)やイェーマト族であり、イングランドとの関係と言えばアングル族(Angles)の王へのあいまいな言及のみにとどまる。

 言語・文化において見られたアングロ・サクソン族支配下のイングランドの変化は、1066年のノルマン征服(Norman Conquest)により加速される。フランス語を話す支配階層の支配により、英語の語彙にはフランス語からの借用語(loan words)が加わった。また、アングロ・ノルマン(Anglo-Norman; ノルマン征服後に英国に移住したノルマン人とその子孫ら)のアングロ・サクソン族による侵攻前のイングランドに対する関心を通して、12世紀にはケルト文学に登場する伝説的英雄であるアーサー王(King Arthur)がイングランドだけでなくヨーロッパを席巻し、アーサー王と円卓の騎士(Knights of the Round Table)の物語は中世におけるフランス語・英語・ドイツ語などの文学の主要な題材となった。イングランドにあっては、ラテン語・古英語・フランス語・中英語で文学が書かれ、そののちの英文学の発展への環境が整った。

 英語での文学は中世を通して盛んであったものの、「英」文学であることへの意識・プライドは14世紀を待たねばならない。1336年、エドワード3世(Edward III)かフランスの継承権を主張し英仏百年戦争(the Hundred Years’ War)を開始した。1453年にカレー市を残しイギリスがフランスから完全に駆逐されるまで間欠的に続いた戦争の、その一つの結果として上流階級にイギリス人(English)としてのアイデンティティーが芽生えることとなる。そして14世紀末までには、英語は議会や公職においてフランス語にとって代わり始める。カンタベリー物語(The Canterbury Tales)の作者として有名なチョーサー(Chaucer(d.1400))による、ラテン語・フランス語の詩を自国の口語で模倣する試みはこの流れにあると言える。彼の作品は英語の文学の器としての価値を大いに高めるものであり、後世の作家からイギリスのホメロス(English Homer)や英詩の父(the father of English poetry)という称賛を受けることとなった。彼の友人で会ったジョン・ガワ―(John Gower(ca.1330-1408))も、以前はラテン語・フランス語で詩作をしていたものの、最後の作品『恋人の告白(Confessio Amantis)』は(タイトルこそラテン語であるものの)英語による創作である。この様に、14-15世紀の英文学は単に時代区分というだけでなく、英語をラテン語・フランス語に匹敵しうる文学の媒体としたのであった。

 

参考文献

The Norton Anthology of English Literature, 9th edn, Vol.A. Ed. Stephen Greenblatt et al. New York and London: W. W. Norton & Company, 2012.